「借金も財産分与の対象になるのでしょうか?」
といったご相談を受けるケースがよくあります。
確かに借金が財産分与の対象になる可能性はありますが、必ずしもそうとは限りません。
法律上「マイナスの財産分与」はしないからです。相手から「借金を半分負担するように」と言われても、基本的に応じる必要はありません。
今回は借金が財産分与の対象になるのか、金沢の弁護士が解説します。
夫から「離婚するなら借金やローンも財産分与する」といわれてお困りの方はぜひ参考にしてみてください。
このページの目次
1.財産分与とは
そもそも離婚時の財産分与とはどういった制度なのか、簡単に確認しましょう。
財産分与は、離婚時に夫婦の共有財産を清算するための制度です。婚姻時、夫婦が協力してつみたてた財産の多くは「共有状態」になります。ただ離婚後は共有のままにしておけないので、財産分与によって分配するのです。これを「清算的財産分与」といいます。
清算的財産分与では、基本的に夫婦が財産を2分の1ずつに分け合います。ただし話し合いによって両者が納得すれば、2分の1以外の割合で分けてもかまいません。
財産分与の対象資産
一般的に財産分与の対象になることの多いのは以下のような財産です。
- 現金、預金
- 保険(積立式のもの。生命保険、火災保険、学資保険など)
- 不動産
- 車
- 株式や投資信託、国債など
- 価値のある動産類
- 退職金
夫が今後10年以内に退職する予定があって退職金が支給される可能性が高い場合、退職金(見込額)も財産分与対象になる可能性があります。
夫名義の財産だけではなく妻名義の財産も分与対象になるので、財産分与の話し合いの際にはお互いが財産を開示し合って公平に分け合いましょう。
2.財産分与の対象になる借金
借金については、財産分与の対象になるものとならないものがあります。
以下ではまず、財産分与の対象になる借金をみてみましょう。
2-1.生活費のための借金
生活費のための借金であれば、財産分与の対象になる可能性があります。
たとえば以下のような借金やローンです。
- 生活費が足りずに利用したカードローンやクレジットカードなどの残債
- 家族で使う車のローン
- 家族で住むための家の住宅ローン
- 家族で使うパソコンなどの購入費用の分割払いの残債
2-2.借金の清算方法、計算例
借金を財産分与の対象として清算する場合、以下のように計算します。
STEP1 プラスの資産からマイナスの借金を引き算する
まずは夫婦のプラス資産からマイナスの負債を引き算します。その数字が財産分与対象額です。
たとえば800万円の資産があり、生活費のための借り入れが200万円ある場合には800万円-200万円=600万円が正味の財産分与対象額となります。
STEP2 夫婦で2分の1に分ける
正味の財産分与対象額を夫婦で2分の1ずつに分け合います。
たとえば上記の事例なら正味の財産分与額が600万円なので、お互いの取得分は300万円ずつです。
借金の名義が夫であれば、夫は500万円分の資産を受け取って妻へ300万円を支払います。借金の名義が妻であれば、妻が500万円を受け取って夫へ300万円を支払って清算します。
2-3.マイナスの財産分与は行わない
借金の財産分与を行う際「マイナスの財産分与はしない」ので注意が必要です。
マイナスの財産分与とは、プラスの資産から負債を引いたときにマイナスになるケースでの借金の分配です。
たとえばプラスの資産が300万円あって借金が500万円ある場合、差し引きすると-200万円となってしまいます。
この場合、夫と妻が100万円ずつ負債を負担する、といった結論にはなりません。
財産分与はあくまでプラス資産がある場合に行うものです。
夫から「うちの家計はマイナスだったから、離婚後はローンを半額払うように」などといわれても必ずしも応じる必要はありません。
2-4.債権者には対抗できない
財産が全体でマイナスになってしまう場合はもちろん、プラスになる場合であっても知っておくべきことがあります。
それは「借金の財産分与は債権者には主張できない」ことです。
たとえば資産が800万円、夫名義の負債が200万円あって夫婦が300万円ずつの資産を受け取るケースにおいて、借金を離婚後に払い続けるのは夫だけです。妻が100万円を支払う義務はありません。債権者から請求される心配も不要です。
3.財産分与の対象にならない借金
以下のような借金は財産分与の対象になりません。
3-1.個人的な借金
夫婦どちらかの個人的な借金は財産分与から外れます。典型的には以下のようなものです。
- ギャンブルのための借金
- 個人的な投資の失敗の穴埋めのための借金
- 事業に失敗した分の借金
- 浪費のための借金
3-2.相手に伝えていなかった借金について
「相手に秘密の借金」であっても、それが生活費のための借り入れなら財産分与対象にできる可能性があります。相手から「聞いていなかった借金なので差し引きはしない」と言われても、あきらめずに弁護士まで相談してみてください。
4.住宅ローンがある場合の財産分与
住宅ローンがある場合、アンダーローンかオーバーローンかを調べなければなりません。
アンダーローンなら財産分与対象になりますが、オーバーローン物件は財産分与対象から外れます。
ただオーバーローンであっても、離婚後にどちらが住むのか、任意売却を行うのかなど決めなければならないケースが多数あります。
迷われたときには弁護士までご相談ください。
なお住宅ローンがある場合の財産分与についてはこちらの記事で詳しく解説しているので、ご参照ください。
8の記事にリンク
5.財産分与を有利に進める方法
財産分与を有利に進めるには、以下のように対応しましょう。
5-1.財産隠しを防止する
まずは相手による財産隠しを防止しなければなりません。
相手名義の預貯金や保険、株式などについてはすべて提示させましょう。
相手が隠す場合、調査が必要になるケースもあります。
弁護士であれば職権で調べられる可能性があるので、迷ったときにはご相談ください。
5-2.正確に評価する
財産が明らかになったら、正確に評価しなければなりません。不当に低く評価されると受け取れる財産額が低くなってしまう可能性があります。
特に不動産などの価値が変動したり評価方法がいくつかあったりする財産には注意が必要です。
評価方法がわからない場合にも弁護士がアドバイスしますので、お気軽にご相談ください。
5-3.法律知識を取得しておく
財産分与で不利にならないためには、法律の正確な知識が必要です。
知識がないまま話し合いに臨むのは、武器を持たずに戦いに挑むのと同じように無謀といえます。
事前に本を読んだり弁護士に相談したりして、必要な知識を頭に入れておきましょう。
5-4.弁護士に依頼する
財産分与を有利に進めるためには、弁護士に依頼するようおすすめします。弁護士であれば法律知識を駆使して依頼者のために相手と交渉できますし、相手の財産隠しも防ぎやすくなります。
以下では、財産分与に関する知識を解説しておりますので、ご覧ください。
金沢のあさひ法律事務所では女性の離婚相談に力を入れていますので、借金の財産分与などの問題でお困りの方はお気軽にご相談ください。